コロナの特別定額給付金10万円、別居中の場合は?子供の分は?

コロナ対策の一環として、一人あたり10万円の特別定額給付金が交付されることになりました。

総務省特別定額給付金室作成のチラシによれば、その趣旨は、緊急事態宣言の下、医療現場従事者などへの権威と感謝の気持ちを持ち、簡素な仕組みで迅速かつ的確に家計への支援を行うというもののようです。

この特別給付金への情報には、インターネットの至る所で背することができるので、本ブログでは、内容については、簡単な解説にとどめ、「別居中」という場面に限定した問題に焦点をあてます。

特別定額給付金10万円の支給条件と問題の所在

前提として、原則的な特別支給金10万円の支給条件は、令和2年4月27日(これを基準日といいます)に、市区町村の住民基本台帳に記録されている方です。要は、住民票に記載されている人。

給付金額は、世帯構成員あたり、10万円です。

同一住民票に4名が記載されていれば、給付金額としては合計40万円になります。

問題の所在は、この特別定額給付金の「受給権者」が「世帯主」とされている点です。

父親、母親、子供二人という家族で、父親が世帯主とされている場合、「父親」が受給権者になります。

このことは、夫婦が別居していても同様で、①父親と②母親が別居し、母親が子供二人を看護・養育していると言う場合でも、父親が住民票上の世帯主であれば、父親が受給権者となります。

上記の対応策として考えられたもの

上記の対応策として考えられたのは、「世帯分離」です。また、暴力を理由とする別居については一定の措置が執られています。

世帯分離して世帯主となる

上記のような背景があり、ここ1週間で、世帯分離がインターネットやツイッターで話題となりました。

基準日までに世帯分離をすることで、別居中も、特別給付金の受給権者として扱われるからです。、

しかし、世帯分離には、それを行うことで、世帯の高額医療費の合算ができない、社会保険料が増額される可能性がある、などの事情で、別居中の夫婦がそれぞれコロナ対策の特別給付金を受給するための抜本的な解決策とはなりませんでした。

暴力などを理由に別居している場合

また、今回、暴力などを理由に別居している夫婦として、次の要件を満たすものについては、世帯主でなくても、同伴者の分を含めて、特別定額給付金の申請を行うことができるとされています。

<配偶者からの暴力を理由に避難している方の要件>
①配偶者暴力防止法に基づく保護命令を受けていること
②婦人相談所から「配偶者からの暴力の被害者の保護に関する証明書」や、
配偶者暴力対応機関(配偶者暴力相談支援センター、市町村等)の確認書が発行されていること
③令和2年4月28日以降に住民票が今お住まいの市区町村に移され、住民基本台帳の閲覧制限等の「支援措置」の対象となっていること

この措置は、現実にDV被害などを受けて親元に避難している方などについては一定の救済となります。

夫が妻にDVを行っているというケースで、妻から夫に対して受け取った特別給付金を渡せ、と請求するのは不可能ないし著しく困難であり、要件が適切かはいったん措くとしても上記措置はその救済の一つにはなっているといえます。

単に別居中の場合などはどうする~暴力・DV無しの場合

しかし、上記のような対応策には、時的・質的限界があり、別居中の夫婦が平等・公平に特別給付金を受け取りうる担保とはなっていません。

たとえば、「性格の不一致」、暴力とは認定されないもののモラハラを理由に別居しているような場合、「浮気」を理由に別居している場合などについては、夫婦がそれぞれ独立して自治体から特別定額給付金を受け取れるのではなく、世帯主となる夫婦の一方のみが受け取る、ということになるのです。

法律に基づく請求が難しい可能性

しかも、総務省の案内では、世帯主は「受給権者」、つまり「権利者」として受け取ることになっています。

そのため、世帯主ではない夫婦の一方が、世帯主に対して、不当な利得だ(法律上の原因がない利得だ)と主張することについても、理屈上の障壁があります。

実感覚としては、「国民一人一人に給付」されるものですが、総務省の案内上、法律上の構成としては、あくまで「世帯主」に全ての権利が帰属するという形になってしまっているのです。

その結果、法律に基づいて請求するのが難しくなる可能性があります。

そして、このことの不都合・不平等感は、上記にあげた「父親、母親、子供二人という家族で、父親が世帯主とされている場合」などのように、別居中の片親が子供を養育しているのに、養育していない親が受け取ることになる、といったケースでより大きくなります。

相手に払ってねと請求して、相手が任意に支払ってくれれば、多くの方にとって問題は解決しますが、任意に払ってくれない場合に法律上の請求ができるのか、国ないし総務省には、その手当を示してほしいところです。

婚姻費用分担請求の可能性

なお、強いて法律上の請求の可能性を探るとすれば、別居中の夫婦間の婚姻費用分担請求権という権利が使えないか、というところではないでしょうか。

この婚姻費用分担請求権は、別居中の夫婦の一方が、他方配偶者に対して生活費などの支払いを求める権利です。

給付金につき、離婚慰謝料に含めて請求するという手段も考えられますが、不法行為責任という法律上の条件を満たすのか疑問が残ります。

むしろ、給付金制度が家計(生活費)への支援を目的とするのであれば、婚姻費用に含めて考える方が適合的なように思うのです。

ただ、現在、婚姻費用分担請求権に基づいて一方配偶者が支払うべき金額は、大雑把に言えば、夫と妻の収入、子供の年齢等に応じて決めるという運用がとられているようですが、実際の運用はそうであるとしても、法律の条文は、年収に応じて金額を決めなさいとはなっていません。

また、条文だけを見ると、継続的な給付ではなく、一回的給付を求める請求も成り立つ可能性があります。

国ないし総務省におかれては、「世帯主が受給権者である」という見解を代えないのであれば、別居の問題を念頭に、夫婦の一方がすべて受給し、他方に支給しない場合、婚姻費用分担としての請求が可能とも解釈しうる旨、政策的に示唆してみてはどうでしょうか。

民法760条
夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。