今回のテーマはマンションの理事長についてです。
分譲マンションの管理の主体は管理組合です。管理組合は、そのマンションの区分所有者全員からなる団体です。
この団体の業務を現に執行するのが、マンションの理事長の仕事になります。
以下、解説していきます。
マンション管理組合の理事長とは
マンション管理組合の理事長は、理事会で選任されたマンション管理組合の代表者であり、その業務を統括するものです。
管理組合の業務を現に執行するほか、管理組合を代表して、保険会社や修繕業者などと契約を締結するなどの対外的業務を担います。
そもそもマンション管理組合ってなんだ?という記事です。管理組合の業務や性質論などを解説しています。
理事長の権限
理事長は、総会または管理規約などによって付与された権限を行使します。
管理規約のモデルケースである標準管理規約(単棟型)は、理事長の権限や業務、立場につき、次のように定めています。
1 理事長は、管理組合を代表し、その業務を統括するほか、次の各号に掲げる業務を遂行する。
① 規約、使用細則等又は総会若しくは理事会の決議により、理事長の職務として定められた事項
② 理事会の承認を得て、職員を採用し、又は解雇すること。
2 理事長は、区分所有法に定める管理者とする。
3 理事長は、通常総会において、組合員に対し、前会計年度における管理組合の業務の執行に関する報告をしなければならない。
4 理事長は、○か月に1回以上、職務の執行の状況を理事会に報告しなければならない。
5 理事長は、理事会の承認を受けて、他の理事に、その職務の一部を委任することができる。
6 管理組合と理事長との利益が相反する事項については、理事長は、代表権を有しない。
ここでのポイントは、理事長が①管理組合を代表するものであるという点、②管理組合の業務を統括する者であるとの点、③管理組合の管理者であるとされている点です。
なお、区分所有法上の管理者と理事長とは必ずしも一致させる必要はないのですが、おおくのマンションでは、理事長が管理者たる立場を兼ねる、とされています。
① 管理組合の代表者たる立場
理事長は、管理組合の代表者たる立場に立ちます。このことの意味は、理事長は、対外的に管理組合の顔になるということです。
法律上、代表者の行為はその団体の行為そのものとの評価を受けるのが一般的です。理事長の行為は管理組合の行為そのものとの評価を受けることになります。
たとえば、理事長には、マンションの管理組合を代表して、契約を締結するなどの権限を有します。
また、理事長は、管理費滞納訴訟などの場面で、管理組合の代表者(訴訟追行者)となります。
その他、不動産登記や預貯金通帳の名義の作成も、理事長名義で行われます。
これらは、事実行為としては、理事長個人の行為ですが、団体が当該行為を行った者との評価を受けるわけです。
② 管理組合の業務を統括
理事長は、管理組合の業務を統括する立場にあります。
管理組合総会の場や理事会の場面では議長を務めたりするほか、理事会などを通じて理事の業務の状況や会計・財務の状況などにつき報告を受け、総会の場にてこれを報告する職責を担います。
総会を招集したり、理事会を招集したりするのも理事長の務めです。総会に管理組合の予算案を提出するのも理事長の業務となります。
また、理事長は、マンション内部のトラブルを解決するための責任者的な立場にも立ちます。たとえば、標準管理規約単棟型67条は、理事長は、共同生活の秩序を乱す行為をなす者に対しては、理事会の決議を経て必要な勧告や指示などを行うことができると定めています。
区分所有者若しくはその同居人又は専有部分の貸与を受けた者若しくはその同居人(以下「区分所有者等」という。)が、法令、規約又は使用細則等に違反したとき、又は対象物件内における共同生活の秩序を乱す行為を行ったときは、理事長は、理事会の決議を経てその区分所有者等に対し、その是正等のため必要な勧告又は指示若しくは警告を行うことができる。
③管理者たる立場
また、上記で述べた通り、多くの場合、理事長は、区分所有法の管理者たる立場に立ちます。
区分所有法上、管理者は、共用部分等の保存や集会の決議事項の実行、規約行為の権限を有しますが、これらの権限が理事長に帰属することになります。
また、損害保険金等の受け取り等につき管理者たる理事長は区分所有者を代理します。
さらに、管理組合による訴訟追行権も管理者たる理事長に帰属することになります。
理事長の年間の仕事のイメージ
ごく大雑把ですが、理事長の年間の仕事のイメージは次のようなものです。理事長は理事会の協力・決議の下でこれらの業務をこなしていくことになります。
年度はじめ | 各種の名義変更(新理事長就任時) |
昨年度決算の確認・予算の策定 | |
定期総会の招集・開催の準備・実施 | |
年度中 日常的な業務 |
各種設備の点検・保守やその確認 |
メンテンナンスに必要な契約の締結 | |
入退去の管理 | |
管理費等の請求・管理・経費支出の確認 | |
区分所有者のリフォーム申請に対する対応 | |
トラブル対応 | |
管理員や管理会社からの報告の確認 | |
必要に応じた臨時総会の開催 | |
理事会の招集・議題の整理 | |
年度終わり | 決算の整理・来年度予算策定の準備 |
人事(新理事)の検討 | |
業務の引継ぎ |
参考:理事や理事会の業務、就任拒絶の可否などについて解説した記事です。
理事長の地位について
ここで理事長の地位に関して、選任の方法や解任の方法、報酬について見ていきます。
理事長の選任
理事長は、理事会の互選により選任されるのが一般的です。
総会を通じて選任された理事らが、理事の中で理事長となるものを選任するわけです。
その任期は、管理規約によって定まりますが、1年または2年とされるのが一般的なようです。
理事長の解任
なお、理事会は理事長を解任することもできます。
理事長が、不正行為を行っている、暴走している、といった場合には、理事会にて解任できるという規定がなくても、理事会にてこれを解任することが可能です。
理事を組合員のうちから総会で選任し、理事の互選により理事長を選任する旨の定めがある規約を有するマンション管理組合において、その互選により選任された理事長につき、理事の過半数の一致により理事長の職を解くことができる。
理事長の報酬
理事長は、総会または管理規約の定めるところにより報酬を受け取ることができます。
ただ、現に報酬を支払っている管理組合はそれほど多くはありません。
古いデータですが、平成11年度マンション総合調査報告書(建設省)によれば、役員に報酬を支払っている管理組合の割合は、20パーセントを下回っています。
また、報酬が支払われるとしても、その金額は月額1万円を切るケースが多いようです。
理事長のなり手がいない、理事長になりたくない問題
以上、理事長の業務などについて解説してきましたが、最後に脱線して。
近年、その報酬などに比して、理事長の仕事が大変であることから、マンション管理組合において理事長のなり手が見つからないという問題がクローズアップされています。
これは分からないではありません。
理事長になった場合、自分の収入を得るために、平日は仕事をしながら、他方で休日は管理組合業務に追われるといったことにもなりがちです。
そのため、理事長になりたい、理事長をやってもいいという人が見つからないという問題が全国的に生じています。
また、高齢化率の高いマンションでは、そもそも理事長業務を適正に行えるがいない、という事情もあるようです。
こうした問題への対処法の一つとして管理会社の活用や外部専門家を理事長に据えるなどの対策が取られていますが、抜本的解決にまでは至っていないのが現状です。
管理会社やマンション管理士などによるさらなる活動・活躍が期待される領域だと思います。