今回のテーマは、マンションにおける理事・理事会の役割です。
分譲マンションにおいては、マンション管理組合がマンション管理の主体たる地位となります。
そして、このマンション管理組合で重要な役割を果たすのが理事や理事会です。
以下、理事の役割や業務、選任や報酬、就任拒絶の可否等について、理事会の役割とともに解説していきます。
理事・理事会とは?
上記の通り、分譲マンションの管理の主体はマンション管理組合です。
このマンション管理組合は、マンションの区分所有者全員で組織された団体であり、その総会はマンション管理の最高意思決定機関たる地位を占めます。。
そのため、マンションの管理に際して重要な事項は総会の決議を通じて決めていくことになります。
マンションの総会の意義や役割、手続について解説した記事です。
他方で、いうまでもなく、マンションには多数の区分所有者がいます。大規模万マンションともなれば、区分所有者の数が数百人を超えることもあります。
そのため、これらの区分所有者が毎月のように集まって会議をする、というのは現実的には困難です。
むしろ、日常的な業務や恒常的な業務については、総会で選ばれたが少数の区分所有者が集まって協議・決定していく方がはるかに機動的かつ効率的です。
そこで、管理組合では、マンション管理のために総会で、マンション管理を委託する少数の区分所有者が、マンション管理につき、協議・決定をしていく会議体が「理事会」です。
また、理事会を構成するそのメンバーを「理事」といいます。
多くの管理組合では、日常的な業務や恒常的な業務につき、総会で選任された理事にて構成される理事会の協議・決定に基づいて遂行されることが期待されているのです。
理事について
以下、理事の役割や業務や地位・報酬などについて見ていきます。
理事の役割・業務について
国土交通省が発行するマンションのモデル的な管理規約たる標準管理規約(単棟型 以下同じ)によれば、たとえば管理組合は次の項に掲げる表の左側記載の業務を行うことになります。これはほんの一例ですが、これに対応させて理事の仕事がどのようなものかイメージしてみましょう。
マンション管理組合とは何か、その業務の内容や団体としての性質などについて解説した記事です。
管理組合の業務と理事の仕事の例
【管理組合の業務】 | 【左の管理組合の業務に対して理事が行う仕事】 |
①敷地や共用部分の保守や清掃 | 保守・清掃方法などの検討・業者の選定 |
②組合管理部分の修繕 | 修繕方法の決定・修繕業者の選定 |
③長期修繕計画の作成や変更 | 長期的な修繕計画等の策定・変更を委託する業者の選定や作成された計画の内容チェック |
④官公署、町内会等との渉外業務 | 消防や保健所などとの折衝 |
⑤広報及び連絡業務 | 広報すべき事項の策定・広報文書の作成など |
標準管理規約上、管理組合は上記表中左側記載の業務を行うとされています。しかし、標準管理規約にあるとは言ってみても、実際に誰かがそれをやらねば仕事は進みません。その仕事をするのが理事です。
理事らは、理事会を通じて上記表右欄記載のような事項を検討・協議し、作業に当たっています。
理事らの検討・協議・決定を通じて、管理組合の業務執行が決定され、また、管理組合が行うべき作業が進んでいるわけです。
なお、理事の中でも会計を担当する理事を特に会計担当理事と呼ぶことがあります。
1 理事は、理事会を構成し、理事会の定めるところに従い、管理組合の業務を担当する。
2 後述
3 会計担当理事は、管理費等の収納、保管、運用、支出等の会計業務を行う。
理事会への出席
また、理事らは、上記のような協議・検討あるいはその結果の報告などの為、月に1回あるいは四半期に1回など定期的に理事会を開いています(その頻度は自主管理なのか管理会社に仕事を委託している委託管理なのかによっても異なるものと考えられます)。
私も参加したことがありますが、1回当たり30分など短期で終わることもあれば、審議内容によっては、1時間、2時間など長時間の会議を要することもあります。
また、喫緊の課題に対処するため、月に1回と言わず、週に1回またはそれ以上の頻度で理事会が開かれることもあります。
理事の地位・任期
法律的には、理事は、管理組合から委任を受けて業務を遂行する者であると解釈されます。
株式会社における「会社と取締役」との関係と同様、理事は管理組合から事務の遂行の委託を受けた受任者たる立場で業務にあたることになります。
受任者たる地位に立つため、理事は、法令や管理規約、総会、理事会の決議に従って、管理組合のために、誠実にその職務を遂行しなければならないとの立場に立ちます。
また、標準管理規約によれば、理事は、管理組合に著しい損害を生ぜさせるおそれがある事実を見つけた場合(不正行為など)、これを監事に報告するなどの責務を負います。
役員は、法令、規約及び使用細則その他細則(以下「使用細則等」という。)並びに総会及び理事会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行するものとする。
役員は、次に掲げる場合には、理事会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
①役員が自己又は第三者のために管理組合と取引をしようとするとき。
②管理組合が役員以外の者との間において管理組合と当該役員との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 理事は、管理組合に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、当該事実を監事に報告しなければならない。
理事の選任・就任拒絶の可否・任期などについて
ここで理事の選任について見ておきます
理事の選任方法
理事の選任は、マンション管理組合の総会決議で行われます。
マンションの最高意思決定機関たる総会にて出席・賛成過半数(規約により変更は可能)によって、選任される者です。
ただ、総会での選任が正式な手続とはいえ、理事への就任に際しては、理事長や理事会のメンバーから、事前に内諾の要請があるのが一般的です。
この場合、内諾があったのち、総会での正式な選任手続へと進みます。
なお、理事長は、理事の中から互選により選任されます。
要は総会で理事が複数名選ばれ、選ばれた理事らが理事長は選任する、という仕組みです。
大変そうだ、面倒そうだという理由で理事への就任を拒否・拒絶できるか?
ところで、理事への就任は大変そう、面倒くさそう、理事就任を要請された場合に、こうした理由で理事になるのを拒否・拒絶できるでしょうか。
端的に言えば、法律的には可能です。
上記の通り、理事は受任者たる立場になりますが、それを引き受けるかは各自の判断事項です。したがって、断ることにつき、法律上の障害はありません(ただし、輪番制の場合に理事を断ることにつき、負担金・役員協力金が必要とのルールが採用されていることもあります)。
ただ、上記の通り、理事の仕事は大変です。しんどいのも皆同じ。
健全なコミュニティ・公平な負担という観点から、特別な理由がない限りは、理事就任を要請された際、引き受ける方が多いようです。
理事の任期
一旦理事になったからと言って、未来永劫理事であり続けるというわけではありません。
理事にも任期があります。
多くのマンション管理組合では、理事の任期は2年以内とされることが多いです。
役員の任期は○年とする。ただし、再任を妨げない。
理事の報酬
理事は理事の仕事を全うしたとき、報酬をもらうことはできるのでしょうか?
この点については、法律上のルールはありません。理事に報酬を払うか否かは、団体の意思決定で決めるべき事柄ですから、管理規約や総会の決議によりこれを定めることができます。
ただし、理事に報酬を支払っている管理組合はマンション全体の中で2割程度、残りの8割のマンションでは無報酬とされているようです。
また、理事に報酬が支払われる場合でも、その報酬額は月額2000円から1万円程度とかなり限定的です。
理事の仕事の大変さ、責任の重さに見合うものとまでは言えず、仕事の報酬というよりは社交儀礼的な謝礼の要素が強いように思います。
理事会について
上記に述べたところとも重複しますが、理事会の役割を整理しておきます。
理事会の権限・役割
理事会は理事による会議体です。総会や管理規約で付託された事項などにつき、決議をします。
たとえば、標準管理規約54条1項によれば、予算案や決算案、事業報告案や総会提出議案は理事会の決議を経なければならないとされています。
また、管理組合が滞納管理費に関する訴訟提起などを行う場合も理事会の決議が必要です。
こうした重要事項の決定が理事会の役割・権限となります。
理事会は、この規約に別に定めるもののほか、次の各号に掲げる事項を決議する。
① 収支決算案、事業報告案、収支予算案及び事業計画案
② 規約及び使用細則等の制定、変更又は廃止に関する案
③ 長期修繕計画の作成又は変更に関する案
④ その他の総会提出議案
以下省略
理事会の招集
通常、理事会は、理事長が招集します。
標準管理規約によれば、その招集に際して、理事長は、少なくとも理事会を開く日の2週間前までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならないとされています(標準管理規約52条、43条1項)。
1 理事会は、理事長が招集する。
2 省略
3 省略
4 理事会の招集手続については、第43条(建替え決議又はマンション敷地売却決議を会議の目的とする場合の第1項及び第4項から第8項までを除く。)の規定を準用する。この場合において、同条中「組合員」とあるのは「理事及び監事」と、同条第9項中「理事会の承認」とあるのは「理事及び監事の全員の同意」と読み替えるものとする。ただし、理事会において別段の定めをすることができる。
総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の2週間前(会議の目的が建替え決議又はマンション敷地売却決議であるときは2か月前)までに、会議の日時、場所及び目的を示して、組合員に通知を発しなければならない。
理事会の議事 欠席しても大丈夫?
続いて理事会の議事についてです。これは管理規約の定めによることになりますが、多くの場合、標準管理規約と同じか類似の仕組みが取られているはずです。
標準管理規約によれば、過半数が出席しなければ議事が開けないとされていますので、たとえば理事が6人いるケースでは4人が出席しないと議事を開くことができません。
このケースで3人欠席すると大丈夫ではありません。原則的には流会となってしまいます。欠席する場合には事前連絡を入れるようにしましょう。
1 理事会の会議は、理事の半数以上が出席しなければ開くことができず、その議事は出席理事の過半数で決する。
2 次条第1項第五号に掲げる事項については、理事の過半数の承諾があるときは、書面又は電磁的方法による決議によることができる。
3 前2項の決議について特別の利害関係を有する理事は、議決に加わることができない。
理事会の議事録
区分所有法上、理事会の議事録作成を義務付ける規定はありませんが、標準管理規約をはじめ、多くの管理規約では理事会の議事については議事録を作成することが求められています。
標準管理規約によれば、理事会の議事を作成する場合、これが書面による場合には、理事会の議事につき、議事の経過の要領及びその結果をその署名に記載し、議長及び理事会に出席した理事2名がこれに署名押印して、議事録を作成することになります。
議事録については、第49条(第4項を除く。)の規定を準用する。ただし、第49条第2項中「総会に出席した組合員」とあるのは「理事会に出席した理事」と読み替えるものとする。
1 総会の議事については、議長は、議事録を作成しなければならない。
2 議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記載し、議長及び議長の指名する2名の総会に出席した組合員がこれに署名押印しなければならない。
3 省略
4 省略