今回のテーマは、雇用契約の解約の申入れについて定める民法627条についてです。
民法上の雇用に関する規定は、大部分、労働基準法や労働基準法によって修正されるので、民法がそのまま適用されることはあまりないのですが、この民法627条は例外。
1.当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
2.期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
3.六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。
重要条文なので丁寧に見ていきましょう。特に、1項が重要です。関連論点も含めてみていきます。
民法627条1項
民法627条1項は、労働者が会社や仕事を辞めたいというとき、しばしば適用される重要条文です。
もう一度、今度は第1項だけ見てみましょう。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
労働者側はいつでもやめることができる
まず、民法627条1項前段では、当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができる、とされています。
この規定によると、労働者たる従業員は、会社や使用者に対して、いつでも雇用契約を解約する、つまり退職を申し出ることができることが原則になります。
法律上は、理由なんか不要です。
ただ、労働者が「いつでも解約をする」権利を有するのは、その雇用契約に「期間の定めがない」ときに限られます。
ここは重要ですのでもう一度言いますが、いつでも辞めることができるのは、労働契約において労働期間の定めがない場合です。
逆に言えば、労働契約の期間を1年などと定めている場合、上記民法627条1項は使えません。
この場合は、民法628条によることとなり、辞めるためには、「やむを得ない事由がある」と言えることが必要になります。
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
退職まで申入れから2週間の経過が必要
上記の通り、労働者は、期間の定めのない労働契約につき、いつでも解約することができます。
ただ、実際に、解約の効力が発生する(労働契約が消滅する)のは、「解約の申入れの日から二週間を経過」したときです。
たとえば、3月1日に辞めます、と会社に言った場合には、3月15日の経過をもって、労働契約が消滅します。3月15日をもって退職日(最終の勤務日)となるわけです。
なお、2週間の数え方については、次の記事をご参照ください。初日不算入です。
民法が採用する初日不算入の原則について解説した記事です。ぜひご参照いただけますと幸いです。
また、2週間の経過をもって、退職となります。それ以後について残っている有給を消化することはできません。法律上、有給を消化するなら、退職前の期間に使うことが必要です、
パートやアルバイトは?試用期間中は?
では、上記民法627条1項の規定は、パートやアルバイトにも適用はあるのでしょうか?
端的に言えば、適用され得ます。
要は、パートやアルバイト、あるいは契約社員であれ、労働期間について定められていなければ、民法627条の条件を満たしますので、いつでも解約の申入れができるし、2週間の経過をもって労働契約は終了する、ということになります。
また、使用期間中に労働者側から退職しようとする場合も同様です。
ここで大事なのは、正社員か否か、パートやアルバイトか否か、あるいは試用期間かどうでないかという点ではなく、雇用契約に雇用期間の定めがあるのか否かです。
お手元の採用条件通知書や、雇用契約書に雇用期間の定めがあるか、確認されてみてください。
就業規則との優先関係は?
この記事を読まれている方の中には、「法律には確かに2週間と書いてあるかもしれないけど、自社の就業規則には一月前には届け出ないといけないと書かれています」、という方もいるかもしれません。
民法627条1項は強行規定
この627条1項は一般的には強行規定と解されています。
強行規定というのは、当事者間で合意よりも優先する法律上の規定です。これに反する合意は無効と扱われます。
したがって、民法627条1項は、強行法規性があるものとして就業規則に優先します。上記例でも、労働者は解約申入れから2週間の経過で退職できることになります。
強行法規性を認める判例
この点について、参考となる判例があるので、判旨部分のみ引用しておきます。
「1審原告と1審被告との労働契約は、期間の定めのない労働契約であるところ、労働者からする退職の申出は、退職まで2週間の期間を要するのみであり〔民法627条1項〕、同規定は強行規定と解される・・」。
一方的に「今日辞めます」は損害賠償の対象
上記の通り、民法627条1項は、解約の申入れから2週間の経過をもって退職とする旨定めています。
これは、反対に言えば、その2週間の間は、使用者と労働者との間で雇用契約が継続している、という意味になります。
そのため、たとえば、「今日辞めます」と一方的に告げて、仕事に行かなくなってしまった場合、2週間を有給消化としている等、労働をしないことについて違法性を消滅させる事情がないと、労働提供義務の不履行(適切な引継ぎをしなかった)等を理由に損害賠償を請求される可能性が生じます。
使用者はいつでも解雇可能?
労働者側からの退職については、上記の通りですが、一応使用者の解雇についても言及しておきます。
上記民法627条1項を厳密に見られた方は、あれ、「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。」とされているので、使用者側も、いつでも契約を解約できるの?と疑問に思ったかもしれません。
しかし、使用者側からの解約(これを解雇と言います。)については、労働基準法20条や労働契約法16条等に規定が置かれています。これらの規定は、上記民法627条1項に優先します。
使用者側からの解約(解雇)については、普通解雇や懲戒処分としての解雇を問わず、労基法などが定める厳しい条件をクリアしなければならなりません。
民法629条1項に基づいて、いつでも理由なく労働契約を解約できるのは、労働者のみです。
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合においては、この限りでない
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
民法627条2項
同1項の解説に随分とスペースを割いてしまいましたが、続いて627条2項についてです。以下、述べますが、民法改正の対象となっており、従前民法と改正民法とでは、大きな違いが生じています。
現行民法の規定及び解釈
2019年6月現在時点における現行法の民法629条2項の規定は次の通りです。
期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
この規定は、給与等の報酬を完全月給制とするなど、純然と「期間」に応じて給与を決めているような場合に適用される規定です。
期間によって報酬を定めたとされる場合、上記627条1項の適用は無く、解約の申入れ及びその効力の発生時期については、この2項に基づいて判断されることになります。
たとえば、完全月給制の下、毎月1日から月末までの給与が一つの単位となって給与が支払われているとすると、たとえば、翌月1日に辞めるためには、当月の前半で解約の申入れをする必要があります。
当月の後半においては、翌月における解約の申入れはできず、退職するにはさらに翌月を待つ必要があります。最長、解約申入れから退職まで一月半を要することになるということになります。
改正民法の規定
上記は、本記事執筆現在のものですが、民法改正が有り、上記2項のルールは大きく変わります。
改正された条文を見てみましょう。
期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
どこが違うか分かりますか、そう、従前の2項の本文では、単に「解約の申入れは・・・」とされていたのに対し、改正民法においては、「使用者からの解約の申入れは・・・」とされています。
同2項が適用される場面が、使用者が解約を申し入れる場面のみに限定されたのです。
この改正の意味は、労働者側からの退職の場合、完全月給制であれ、民法627条2項は適用されず、原則に戻って、同1項が適用されるという意味になります。
つまり、完全月給制の場合でも、労働者はいつでも雇用契約を解約の申入れをすることができ、その申入れから2週間の経過によって、退職できる、ということになります。
労働者にとっては、メリットの大きな改正です。2020年4月1日から施行となります。
民法627条3項
最後に627条3項について見ておきましょう。
条文は次の通りです。
六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。
現行民法の下では
この規定は、年棒制など、6か月以上の期間によって給料が定められている労働契約についき、解約をしようとする場合、解約の申入れを3か月前にしなければならない、と定めるものです。
627条3項の規定を適用すると、1月1日から12月31日までの期間をもって年棒を定めている場合において、次期に雇用契約を解約しようとするには、9月末までに解約の申入れをする必要があるということになります。
改正民法の下では
上記の通り、改正民法の下では、第2項が改正されて、627条2項が使用者が解約を申し入れる場合にのみ適用される規定となりました。
そして、627条3項は、「前項の解約の申入れは、三カ月前にしなければならない。」と定めるにすぎませんので、2項の改正の影響を受け、労働者側から解約を申し入れる場合については適用されないことになります。
したがって、年俸制においても、労働者はいつでも雇用契約を解約の申入れをすることができ、その申入れから2週間の経過によって、退職できる、ということになります。