自衛隊・憲法9条(平和主義)関連判例を5つ集めました

学習の便宜のため自衛隊、自衛権に関する訴訟につき、有名な判決を集めました。性質上、司法審査の限界とも関連する判例が多いです。

以下、憲法学習の上でのミニマム部分として、重要判示ポイントを示しています。

ただ、併せて、判決文全文を読めるホームーページへとリンクしています。憲法に関する裁判所の立場を勉強するのであれば、できれば読んだ方がよいです(長沼訴訟は最高裁だけ読んでも分かりませんが・・・)。

なお、リンク先は特に断りのない限り、裁判所の裁判例検索システムに搭載されたPDFです。

警察予備隊違憲訴訟 最高裁昭和27年10月8日判決

抽象的な違憲審査権は無い。

<重要判示ポイント>
司法権が発動するためには具体的な争訟事件が提起されることを必要とする。

我が裁判所は具体的な争訟事件が提起されないのに将来を予想して憲法及びその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。

警察予備隊違憲訴訟 最高裁昭和27年10月8日判決全文へ

【司法権の発動要件】
自衛隊の前身ともいわれる警察予備隊の設置やこれに関する法定等が違憲無効であると争われた事件です。

司法権の発動に「具体的争訟」が必要であること、法令などの合憲性に関して、裁判所は、一般的抽象的にこれを破棄して無効とする権限を有しない旨判断しています。

砂川事件 最高裁昭和34年12月16日判決

ぱっと見で、明らかにおかしいと言えない限りは、司法審査権の範囲外

<重要判示ポイント>
「安全保障条約は、前述のごとく、主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもの」であり、「その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。」

「それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のもの」である。

砂川事件 最高裁昭和34年12月16日判決全文へ

【政治行為と司法審査】
砂川事件最高裁判決は、次のような諸点等について判断した判例です。

・憲法第九条(同2項も含む)の立法趣旨
・憲法が自衛権を否定したもの否か
・日本に駐留する外国の軍隊が戦力に当たるか
・安保条約に関する司法裁判所の司法審査権の範囲など

なかでも、上記の重要判示部分が有名で、高度の政治性を有するものにつき、司法審査の範囲を示しています。

恵庭事件 札幌地判昭和42年3月29日判決

審査する必要がないものは審査しない。

<重要判示ポイント>
憲法の適否に関する審査決定は、「当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ」なすべき

恵庭事件 札幌地判昭和42年3月29日判決全文へ(京都産業大学のページへリンク)

【憲法判断回避の準則】
被告人が自体対基地内の演習用電信線を切断したため、自衛隊法121条「防衛用器物損壊罪」に問われた事件です。

裁判所は、「自衛隊法121条」にいう「その他の防衛の用に供する物」は「武器、弾薬、航空機」と「同列に評価しうる程度の密接かつ高度な類似性の認められる物件を示称する」と述べ、被告人が切断した電信線はそれに該当しないとし、憲法の適否に関する審査決定は、「当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要なばあいにだけ」なすべきとの判断を示しています。

憲法判断回避の準則を示した裁判例として知られています。

ナイキ長沼訴訟 最高裁昭和57年9月9日判決

自衛隊が合憲か違憲か?そんなの関係ない。

<重要判示ポイント>
ナイキ長沼訴訟では下級審で自衛隊の合憲性が問われ、判断が分かれたものの、最高裁は自衛隊の合憲性の問題に触れずに訴訟を終結させています。

自衛隊の合憲性について触れなかった点がポイントです。

ナイキ長沼訴訟 最高裁昭和57年9月9日判決全文へ

【憲法判断を回避した?地裁からの流れ】
ナイキ長沼訴訟は、自衛隊基地建設のために保安林の指定を解除した処分の取り消しを求めて地域住民が提訴した事件です。

平和的生存権を第1審が認めたことから衆目を集めました。最高裁だけを読んでも、事件と憲法9条や平和主義との関係はでてきません。地裁からの流れを押さえることが肝要です。

⇒第一審の判示のポイント

札幌地方裁判所昭和48年9月7日判決(第1審)は次のように述べています。

 【平和的生存権を確認】
「憲法は平和主義をたんに政治体制の原理として宣言したにとどまるのではなく平和のうちに生存する権利は政治的かつ生存権的な権利であること、しかしこれが全世界に普遍的な自然権的権利であることを確認している」

⇒第二審の判示のポイント

上記に対して札幌高等裁判所は次の①のように判示して、平和的生存権の裁判規範性を否定するとともに、自衛隊を認める法令又は自衛隊の存在等が憲法9条に反するか否かとの問題につき、②統治行為論を採用して違憲か否かの判断を回避しました。

【統治行為は原則として司法審査権の範囲外】
①憲法前文に定める平和は、「崇高な理念ないし目的としての概念にとどまるものであることが明らかであつて、前文中に定める「平和のうちに生存する権利」も裁判規範として、なんら現実的、個別的内容をもつものとして具体化されているものではない。

②憲法第八一条は、前記統治行為の属性を有する国家行為については原則として司法審査権の範囲外にあるが、前記の如く大前提、小前提ともに一義的なものと評価され得て一見極めて明白に違憲、違法と認められる場合には、裁判所はこの旨の判断をなし得るものであることを制度として認める規定であると解するのが相当である。

⇒最高裁の判示のポイント

地裁・高裁で判断が分かれたため、最高裁の判断がどうなったのかが着目されますが、最高裁は「訴えの利益」の有無の観点から事件を判断し、自衛隊の合憲性の問題に触れませんでした。

【憲法解釈を示さなかった】
最高裁は、高裁のように、統治行為論を示したのではなく、訴えの利益の問題として事件を処理しています。

行政法の原告適格の解釈などについては非常に参考になるものがありますが、憲法解釈論は示されていません

この最高裁の判断をどう受け止めるか議論はあるところですが、当事者が憲法を争点としていてもなお「憲法解釈を示さなかった」こと自体が、憲法判断の在り方に一定の示唆を与えています。

百里基地訴訟判決 最高裁平成元年6月20日判決

私法上の行為に憲法9条は直接適用されない。

<重要判示ポイント>
憲法九条は、「人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではない」。

憲法九条の宣明する国際平和主義、戦争の放棄、戦力の不保持などの国家の統治活動に対する規範は、「私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、民法九〇条にいう「公ノ秩序」の内容の一部を形成する」。

そのため、私法上無効か否かは、「私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否か」を基準として判断する。

百里基地訴訟判決 最高裁平成元年6月20日判決全文へ

【憲法9条と私人間効力など】
百里基地訴訟判決は、次のような論点について判断した最高裁判決です。

①国の私法上の行為が「国務に関するその他の行為」(憲法98条1項)に該当するか
②私法上の行為に憲法九条が適用されるか否か
③憲法9条と民法90条の「公の秩序」との関係

教科書レベルでは、特に憲法の私人間効力(上記③)との関連で紹介されることの多い判決です。