月極駐車場や契約駐車場などによく、「駐車禁止 無断駐車・違法駐車を発見した場合、罰金を頂きます」などの看板や掲示がされていることがあります。
罰金の金額はそれぞれで、3万円と書かれていることもあれば5万円等と書かれていることもあります。
また、駐車場によっては、「無断駐車車両は見つけしだい撤去します」といった看板が設置されていることもあります。
このような罰金を定めた看板や掲示、撤去しますと定めた看板や掲示等に法的な効力はあるのでしょうか?
駐車場の罰金の看板・掲示には法的効力はない
結論を言えば、上記のような「罰金を頂きます」などの看板・掲示には、実際、罰金を課しうる法的効力はありません。
そもそも、私人と私人との間において、当事者の一方が決めた金額を相手に支払わせようとする場合、相手の合意が必要です。平たく言えば、契約が必要ということ。
ところが、罰金を課します、とだけ書いていたとしても、これをもって、無断駐車した者が罰金の支払うことに応じた、承諾したとはいえませんので、当事者間に合意は成立していないと言わざるを得ません。
したがって、上記のような罰金の掲示・看板には実際に罰金を課すだけの効力はない、ということになります。
なお、罰金につき看板ではなくて、無断駐車車両の車体に張り紙などで明示する場合も同様です。
無断駐車車両の所有者ないし利用者の意思に基づく合意がとれない以上、一方的に金額を定めても法的には効力が無い、ということになります。
使用料金につき合意したものとみなす場合はどうか
では、看板や掲示に、罰金ではなくて、使用料金に合意したものと見なす、などと記載しておく場合はどうでしょうか。
罰金の仕組みと異なり、相手の合意があると扱う方法で、一工夫されているとはいえます。
しかし、民法においては、一方当事者が、勝手に「相手の合意があるとみなす」、などとすることはでいうことはできません。やはり、これも効力が否定されます。
これが許されるのであれば、いくらでも相手の意思を擬制出来ることとなり、当事者の自由な判断にもとづく意思の合致を契約の成立要件とする民法とは相いれません。
結局、使用料金につき、合意したものとみなす、というのも罰金の場合と同様、法的な効果は否定されます。
無断駐車・違法駐車に対して、結局何も請求できないのか
では、無断駐車に対して、結局、金銭的には何も請求できないのでしょうか。
結論を言えばそうではありません。
不法占拠を理由に、損害賠償等の請求をすることができる
私有地に対する無断駐車は違法行為ですから、不法行為責任という責任に基づいて、私有地のオーナや権利者は、無断駐車をした者に対して、使用料相当額を請求し得ます。
また、不法行為でなくても、無断駐車によって、使用料相当額を不当に利得したとも評価できますので、不当利得返還請求も成り立ちうるところです。
損害賠償請求等の金額は?
ただ、この場合に相手に請求できるのは、当該駐車場の使用料とこれに対する利息等(不法行為責任を追及する場合には弁護士費用の一部も含む)に限られます。
要は実損額が基礎になる、ということです。看板記載の額が基礎となるわけではありません。
たとえば、近隣地域において1時間当たり500円の単価が相場となっている場合、基本的には、500円×無断駐車の時間が請求金額の基礎になる、ということです。
1日5万円などという罰金と同レベルの金額を請求するのは、およそ困難でしょう
(東京のまさに都心部だとコインパーキングの使用料1時間当たり2000円越えとかあるんですかね?それなら1日50000円も基礎づけ得ますが・・・)。
「撤去します」という看板はどうか
最後に、類似の問題として、罰金から離れて、「無断駐車車両はすぐに撤去します」という看板等の効力について考えてみましょう。
もうお分かりかもしれませんが、この看板の効力も、結局は相手の意思ないし合意の問題に帰着します。
上記のような看板を掲示していたからと言って、相手が撤去に合意をしたとはいえませんので、やはり、文言通りの効力は生じないといわざるをえません。
したがって、「撤去します」の看板を立てていたからといって、実際に撤去していい、ということにはならないのです。
ただ、救いになるかは分かりませんが、上記のような看板を掲示していたとの事情は、一つの事情として、自力救済における例外的な許容の範囲を広くする、といった間接的な効力は認め得るように思われます。
私見ではありますが、無断駐車に対しては、自力救済禁止の例外として、場合よってレッカー移動も許容されうると考えています。
そうだとすると、レッカー移動等の自力救済を図ろうとする駐車場のオーナー等にしてみれば、「撤去します」という看板を掲示して、周知していたことは、一つ、自力救済の例外として許容されるとの評価を受けるための自己に有利な事情と言い得るでしょう。