今回のテーマは車庫飛ばしについてです。
車庫飛ばしは、車の保管・駐車場所に関して生じる問題です。
以下、その定義や、これに対する法律(罰則)等について解説していきます。
車庫飛ばしとは
車庫証明書上の保管場所と異なる場所に、車を保管することを言います。
車庫証明書上の保管場所というのは、主として車を駐車する場所のことを指すところ、実際には、違う場所を自動車の主たる保管場所として利用している場合は、車庫飛ばしに該当します。
「自動車の保管場所」とは
「自動車の保管場所」の意味については、大阪高等裁判所の昭和44年6月22日判決が参考になります。
この判決は、法五条一項にいう「道路上の場所を自動車の保管場所として使用」の解釈として、次のように述べています。
「道路上の場所を自動車の保管場所として使用」とは自動車を運行する根拠地として使用する目的で、道路上の一定の場所を、反覆又は継続して占拠することをいう、ものと解するのが相当である。」
この判旨に照らして考えると、「保管場所」と言えるのは、「自動車を運行する根拠地として反復継続して使用する場所」であることを要するといえそうです。
もっとも、日常生活においては、保管場所につき、とりあえずは自動車を主として駐車する場所という程度に理解しておけば足りると思います。
車庫飛ばしが発生するケース
車庫飛ばしが発生するケースの一つは、転居などに伴って車庫も変わったが、その変更を怠っているような場合です。
また、保管場所につき、あえて車庫証明申請に際して、虚偽の申請を行うなどした場合も、車庫飛ばしが発生します。
排ガス規制を逃れるために、車庫証明申請に際し、虚偽の先生がなされるケースなどもあります。
ばれると逮捕されることも
車庫飛ばしは、悪質なものになると、逮捕の対象となります。
インターネット上で見られる情報によっても、車庫飛ばしにつき電磁的公正証書原本不実記録・同供用などの疑いで逮捕などの例が散見されます。
上記大阪高等裁判所昭和44年6月22日判決も刑事事件に発展しています。
個人の車庫飛ばしでは、逮捕例はすくないものの、法人・会社による意図的なものについては、実際摘発の対象となり得ます。
そして、その端緒は、車庫飛ばし・不審車両の駐車に気付いた方による通報であることが少なくないようです。
また、交通違反の摘発に際し、車検証と免許証の情報のチェックなどを通じて車庫飛ばしがばれることもあります。
法律(車庫法)と罰則
車庫飛ばしに関する法律としては、自動車の保管場所の確保等に関する法律(通称、車庫法)があります。
公安委員会の命令に反した場合
その第9条1項及び第17条第1項は、次のように規定しています。
自動車の使用の本拠の位置を管轄する公安委員会は、道路上の場所以外の場所に自動車の保管場所が確保されていると認められないときは、当該自動車の保有者に対し、当該自動車の保管場所が確保されたことについて公安委員会の確認を受けるまでの間当該自動車を運行の用に供してはならない旨を命ずることができる。
同17条1項
次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
① 第九条第一項の規定による公安委員会の命令に違反した者
② 第十一条第一項の規定に違反して道路上の場所を使用した者
要は、保管場所が確保されていない場合、公安委員会が車を使うなと命令できますよ、それに反したら、3月以下の懲役または20万円以下の罰金に処される可能性がありますよという規定です。
道路を車庫替わりに使用していた場合も同様の罰則が課され得ます同11条1項、同17条1項2号)
不届・虚偽届
また、同法は、第5条や第7条1項、13条3項等において、自動車の保管場所を警察署長に届け出なければならないとしています。
これに反して、保管場所に関し届け出を怠ったり、虚偽の届出をしたりした場合には、20万円以下の罰金に処せられる可能性があります(同法17条第3項)。
転居の際に、保管場所の届出をするのを怠ることのないよう、注意が必要です。参考までに、第5条と17条3項1号のみ挙げておきます。
軽自動車である自動車を新規に運行の用に供しようとするときは、当該自動車の保有者は、当該自動車の保管場所の位置を管轄する警察署長に、当該自動車の使用の本拠の位置、保管場所の位置その他政令で定める事項を届け出なければならない。
同法17条3項1号
次の各号のいずれかに該当する者は、十万円以下の罰金に処する。
① 第五条、第七条第一項(第十三条第四項において準用する場合を含む。)又は第十三条第三項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
自動車登録との関係
さらに、自動車の保管場所に関する虚偽の書面を提出し、又は警察署長に自動車の保管場所に関する虚偽の通知を行わせて、自動車登録をしていた場合には、20万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処する。
①自動車の保管場所に関する虚偽の書面を提出し、又は警察署長に自動車の保管場所に関する虚偽の通知を行わせて、第四条第一項の規定による処分を受けた者
刑法典規定の犯罪となることも
車庫飛ばしの態様によっては、刑法典が規定する犯罪が成立することもあります。
たとえば、自動車を販売したディーラーが、自動車の保管場所を有しないか、あるいは他県に居住しているため、自動車の新規登録をすることが困難であるなどの理由で、車庫飛ばしをしようとする場合、摘発の対象となり得ます。
昭和55年12月23日東京地裁八王子支部判決もその例です。
この事案は、自動車販売業者が、業務用に借用している第三者の土地の所有者名義を冒用して、自動車の保管場所を確保している旨の内容虚偽の自動車保管場所使用承諾書を偽造して、所轄警察署長から、自動車保管場所証明書の交付を受け、陸運事務所に虚偽の自動車新規登録を申請したというケースです。
この事案では、被告人は、公正証書原本不実記載罪などに問われています。
公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。